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(168)T構造って?


T構造という言葉を耳にしたことがありますか?


まるで建築の専門用語のようですが実は保険屋さん用語で、どうやら「耐火構造」のイニシャルTを意味するようですが、驚くのは、耐火構造ではないものを指していること。

耐火構造とは、専門用語としては鉄筋コンクリート造を指しますので、木造住宅に使われる筈もないのです。


しかし建築基準法上の「耐火構造」と同じ言葉が、全く異なる意味を持って独り歩きしていることに、私自身も、長い間気づきませんでした。

住宅ばかり設計監理していますが、竣工引き渡し後の登記や火災保険といった手続きを、直接お手伝いすることもないからです。


住宅建設への融資は「長寿命になる」作り方なら金利優遇があり、火災保険は「燃えにくい」建物なら保険料を安くする、というのは良質な建物への誘導措置でしょう。

しかし、この「長寿命化」へのハードのハードルの高さと、長寿命化に寄与しているとは思えない諸条件には今でも異論続出です。


同じく、「燃えにくい」住宅を建てることには、何の異論もありませんが、この「T構造」を条件とされることには強い違和感を覚えます。なぜか。


T構造」と認められるには、大きく分けて「屋根」「外壁・軒裏」「室内」の仕様基準を満たすことが求められます。


実は専門家の間では、木造建築の防火性能については、様々な実験や研究によって「燃え代設計」も認められ、外壁や軒天に板を張ることも、厚みなどの条件はあれども法的に認められています。


ところが保険屋さんルールには、これらが全く反映されておらず、一律に外壁は防火サイディング、軒裏もケイカル板なら「T構造」。これを「省令準耐火」と呼んでいます。

燃えにくい住宅というお墨付きが貰えて、火災保険料がお安くなる仕組み。


それ以外はグレード下の「H構造」とされ、保険料は相対的に高くなる。

どうやら結構な差額らしいです。


これまで、ずっと木を活かした良質な木造住宅を作ろうと、粉骨砕身して来たつもりでしたが、結果的に住まい手さんに高い保険料を負担させたこともあったのかと、これを知った時にはかなりのショックでした。


知ってからは、設計段階で説明するようにしています。

「外壁を板張りにし、軒裏も野地板が現しで見えるような作りにすると、火災保険料が割高になるようですが、ご了解頂けますか?」と。


快諾してくれて設計を進めた住まい手さんも、ローン返済や子育てが始まって、火災保険料の一件を後悔してはいないかと、老婆心ながら心配だし、申し訳なさに胸が痛む。


せめて建築基準法に則るように変わらないものでしょうか。


おかしな保険屋さんルールで、良質の木造住宅の可能性や実現性を阻害するのは、本当に勘弁して欲しいです。

(2020.11.01)


by iba2019 | 2020-11-01 10:15 | 住宅・家づくり